「百鬼夜行」おぼえがき



2008年10月7日〜12日
バイト仲間の依田氏・渡邉氏・渡邊氏らと共に、
グループ展を開催しました。

共に作品を発表したメンバーの3人は、
それぞれ趣味としての持続的な制作と、
日々の仕事とを両立させている、
ユニークな作家ばかりです。
立場はぼくと近いながら、活発な瑞々しい感性で、
作品発表に臨んでいることが伝わってきます。

ところで、かなり以前よりぼくは、
自分の性格や作品の形態などが、展示発表の場に
まったく向かない、と強く思っており、
友人や知人たちから展示をするよう促されても、
何年もの間、言下に拒絶し続けてきた
という経緯があります。
なので、頑固な前言を翻すかのように、
今回、この展示に参加したことは、
ぼくをよく知る人たちを不審がらせもしたし、
なによりぼく自身が戸惑ったことです。

彼らが自発的に計画したグループ展のメンバーに
ぼくを加えてくれることを申し出てくれた時に、
ぼくとしてはじつに珍しいことなのですが、
斜に構えた自分の姿勢を省み、
「よし、たまにはいっちょやってみるか」
という気持ちにさせられたのでした。

展示が成功したかどうかはさておき、
みんなの制作する姿勢が間近で見られたことは、
非常に興味深かったです。
そして、普段なら自発的には描かないような絵を
思い切って複数手掛けたことで、
まるで17年前に戻ったかのような、
活性化した精神で制作に臨むことが出来ました。

貴重な経験をさせてくれた3人には
心からお礼を言いたいです。
どうもありがとうございます。

また、ギャラリーサイトでの案内は
下のリンクよりどうぞ。
『SAKuRA GALLERY』
関係者の方々には大変お世話になりました。


--- 合作 ---

最初にグループ展を開催すると決めたのは、
依田さんと渡邉さんの2人でした。

2007年の春、
職場の片隅に割れたアクリル板が転がっていました。
そこに依田さんがなにげなく、
油性マジックで何体かの妖怪を落描きしました。
依田さんは放っといてもよく落描きをする人なのですが、
このとき、それ見た渡邉さんまでが、
面白がって妖怪を描き加えたのでした。
これに触発され、興が乗った2人は、
来るべきグループ展のテーマを
「百鬼夜行」にしようと申し合わせ、
身近な人間に参加を募り始めました。

2007年の年の瀬も押し迫った頃、
グループ展の4人のメンバーが揃いました。
各自がどのような作品を創るかということとは別に、
まずは全員が互いを知るための手がかりとして、
件のアクリル板にみんなで妖怪画を描きまくろうと、
試みにぼくは提案してみました。
そのサイズ、縦24.4cm、横107.5cm。
4人はバイト帰りに各々油性ペンを持参して
ウェンディーズに集合し、怪しげな妖怪画を
テーブルに広げて描きまくったわけです。
店員や周囲の客は、この不審な4人組に、
さぞかし迷惑していたことと思います。
しかしこういうことこそが、
まさに合作の醍醐味とも言えましょう。
ぼくは反省はしていません。

2008年の夏、
グループ展の告知用に、ポストカード
(DMと呼ぶそうです)を作ることになりました。
「百鬼夜行」の4文字を各人が
1文字づつレタリングして、
DMのデザインの元にしました。
文字は4人の性格が反映されて面白く、
それなりに良いロゴが出来たように思いますが、
4人で相談しながら作ったDMそのもののデザインは、
時間の少なさと、意見交換の不十分さのせいで、
見栄えのしないものとなってしまい、
この不本意さが、展示を積極的に宣伝する気持ちの
足を引っ張ってしまった一因と
言えなくもない気がします。
ぼくは印刷が仕上がって、DMが送られてきたときに、
一目見て「しまった…!」と
思ったことを覚えています。


--- 水彩画連作 ---

一点(『ななしと12匹の猫』)を除き、
展示のための描き下ろし作品です。
普段は手近なスケッチブックや
コピー用紙に描いてばかりで、
わざわざパネルに水貼りをして描くというのは、
高校の美術の授業以来19年ぶり。
なかなか新鮮な気分でした。

昨年、依田さんたちに「百鬼夜行」という
言葉を持ちかけられて、さて何を描こうかと
自分の心に聞いてみたときに、
昼間の世界では見ることのできない
異形の生き物や、片隅に隠れ棲む者が、
人目に付かない世界の辺縁に存在している光景が
いくつか思い浮かびました。
ぼくは昔から折に触れそういう妄想をするので、
過去にノートやスケッチブックにしたためた
落描きの中からいくつかの候補が挙がり、
2008年3月ごろより、ぽつぽつと描き進めました。

技法は、『日蝕横町』や『迷い猫』などで続けている
モノクロのアクリルガッシュをベースに、
さらに普段使わない絵具を一色を組み合わせて描く、
というのに挑戦してみました。

どれも色味の控えめな絵と見られそうですが、
元来色彩を使うのに巧みでなく、
すっかりモノクロの世界に馴染んでいる
ぼくにとってはかなりの冒険でした。
描出されてゆく世界と結び付き合って、
思った以上の効果が出てきた色もあり、
逆にどうしても特性を掴めず、
絵の魅力を引き出せなかったなかった色もあり、
同時に手掛けながらも、
色によって描き進め方がまるで違ってしまうのです。
初めての発見に満ちていて、とても楽しく描けました。



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