「野原鉄道」おぼえがき



空見市南東部への敷設が
計画されていた小さな都市交通線。
正式名称は「空見往復交通鉄道」。
大規模な宅地開発の先陣を切って着工されたが、
ニュータウン開発構想自体が立ち消えとなり、
工事中のまま放置され、忘れられている。
今でも現場を訪れると、人家もない無人の野に
真新しいレールがのびる奇妙な風景が見られる。

・・・1999年頃にその話を聞いてからというもの、
ぼくはその鉄道を見てみたくてどうしようもなく、
スケッチブックを小脇に抱え、
幻の鉄道を探して野原を歩き回りました。
ただでさえぼくはひどい方向音痴のため
道に迷うことがしばしばですが、
目印のない無人の野原は
訪れるたびに様相が変わり、
以前に来た時と同じ景色を見ているのかどうか、
自信がなくなってしまいます。
噂では、この野原に迷いこんだきり、
帰ってこなくなった子どもがいるらしいのですが、
もしかしたらあの子がそうだったのかも知れないと、
思い当たるふしがないこともありません。
おそらくその噂は半分は当たっているけれど
実情はちょっと違うのではないだろうか。
ここで声高に反論したとしても、
無責任な噂に尾ひれをつけるぐらいが
関の山だと思われるので、
かわりに野原で実際に見たことと
ぼくなりの想像を織り混ぜて、
いくつかのおはなしを描いてみました。

ちなみに 「空白運動」 も同じ野原が舞台です。
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